
最後の直線で地方競馬出身騎手3名が見せた激闘!本当に熱くなりましたね。
そんな熱い思いにさせてくれた今年の秋華賞。ジャンティルドンナとヴィルシーナの動きを中心に、早速振り返って見たいと思います。
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■地力の違いでもぎ取った牝馬三冠パドックに現れたジェンティルドンナですが、馬体は威圧感を感じさせるほど素晴らしい出来でした。春先はシンザン記念後に熱発を発症した影響か、それほどパドックでは良く見せなかったジェンティルドンナですが、この秋はとにかく順調で身が入ってきた事を感じさせる出来でした。
ただ馬の出来は良かったのですが、体調が良過ぎたのかテンションがかなり高かったですね。パドックでも時折小走りになり、担当の厩務員さんに再三首筋を叩かれ、落ち着くように促されていました。
そのテンションの高さは岩田騎手が跨ってからも変わらず、本馬場入場時には岩田騎手を振り落とす場面も。幸い放馬には至らず、岩田騎手も再騎乗して返し馬に移りましたが、その返し馬でも岩田騎手の指示に従わないところを見せるなど、正直かなり不安を覚えるレース前だったと思います。
さてレースですが、パドックから引きずっていたテンションの高さに加え、レース序盤の流れがかなりスローになった為に、明らかに折り合いを欠いていましたね。
岩田騎手も必死に手綱を絞って我慢させていましたが、行く気に逸ったジェンティルドンナはかなり力んだ走り。外枠を引いたこともあり、馬を馬群に入れることが出来なかったので、もしあのままレースが進んでいたらかなり消耗していたことは間違いなかったでしょう。下手をすれば掲示板がやっとだった可能性すらありました。
その絶体絶命のピンチを救ったのが、チェリーメドゥーサ騎乗の小牧太騎手が見せた奇襲戦法。俗に
『園田まくり』とも呼ばれる向こう正面からの大まくり戦法です。
レース序盤は後方に控えていたチェリーメドゥーサ。ところがレースの流れは、13秒台半ばのラップが2ハロンも続くという超スローな流れに。この流れに『これでは出番が無い』と感じた小牧騎手は、意を決して勝負に出ます。
一気にスパートしたチェリーメドゥーサは1ハロン11秒台の脚を繰り出し一気に先頭へ。普通ならここで一旦手綱を緩めて息を入れるのですが、ヨーイドンの競馬では分が悪い事を承知している小牧騎手は、ここでセーフティリードを作る事を選択。一気に10馬身以上のリードを取る形になります。
これで息を吹き返したのが、皮肉にも1番人気のジェンティルドンナでした。他の騎手たちはチェリーメドゥーサが仕掛けても表面上は動きませんでしたが、馬たちはその動きに釣られて自然とペースが速くなります。
このペースアップにより、それまで折り合いに苦労していたのが嘘のように、スムーズに追走出来るようになったジェンティルドンナ。あそこで折り合いが付かなかったら、精神的にも肉体的にも消耗し切って直線を迎えることになっていただけに、小牧騎手の仕掛けは、ジェンティルドンナにとって天の助けと呼べるような代物となったのでは。
その後残り600m付近から岩田騎手の鞭が飛び、ラストスパートへと移ったジェンティルドンナ。外々を回る不利も有り、また前を行くチェリーメドゥーサとの差も相当なものだったので、直線入り口では届くかどうかかなり微妙でしたが、最後はキッチリと前を捕らえたのは流石でした。
正直、今回鞍上の岩田騎手は内田博幸騎手や小牧騎手と比べると、それほど素晴らしい手綱捌きを見せた訳ではありません。ジェンティルドンナ自身は最後の1ハロンを推定11秒代前半で駆け抜けており、もし負けていたら
『脚を余した』として非難されていたのではないでしょうか。
それでも勝ち切った素晴らしさ。これはもう完全に馬の力がなせる業でしょう。2着のヴィルシーナとの着差は僅かにハナでしたが、その僅かの差の中にヴィルシーナが乗り越えることが出来ない、確かな壁が存在するのだと思います。
まさに運や展開に恵まれたのではなく、力でもぎ取った牝馬三冠。ジェンティルドンナの牝馬三冠達成は、そう形容するに相応しい力強いものだったと思います。
■素晴らしいレースを見せたが・・・相手が悪かった敗れはしたものの、2着のヴィルシーナと内田博幸騎手は素晴らしいレースをしたと思います。
今回1枠1番という、単純に考えれば絶好枠と言える枠を引いたヴィルシーナ。しかし同馬は小脚が使えるタイプの馬ではない為、迂闊に控えると包まれて競馬にならなくなる可能性が存在していました。
その可能性を内田騎手は熟知していたのでしょう。ゲートを出ると周囲が予想もしていなかった奇襲に打って出ます。それが全馬のハナを叩いての逃げ戦法。この選択には他の騎手たちも驚き、また動けなくなったのではないでしょうか。
基本的に現代競馬では逃げは不利だとよく言われます。それはまず他馬の目標にされやすいですし、馬というのは習性として先頭に立つことよりも追走する事を好む動物。先頭に立つとどうしても集中力を切らし易くなりますし、また後方からプレッシャーを一身に浴びると、精神的に崩れてしまう馬も多く存在します。
競走馬はそういった習性を持つので、逃げて大レースを勝つ馬など最近ではごくごく稀。NHKマイルCを勝ったジョーカプチーノ、ジャパンCを制したタップダンスシチー、そして稀代の逃げ馬と言われたサイレンススズカなど、逃げて活躍した馬はと聞かれると、皆さんもこれぐらいしか思い浮かばないのでは?
そんな一見すると不利な戦法を選択した内田騎手。しかし内田騎手にしてみれば、これはジェンティルドンナに勝つ為に選んだ秘策だったのではないでしょうか。
ヴィルシーナの武器と言えば、好位から繰り出す息の長い末脚です。反面一瞬の切れにはやや欠けるところが見られるので、スムーズにトップスピードに乗るためには邪魔されることの無い、充分な助走距離が必要となります。
今回ヴィルシーナは最内枠を引いた為、下手に控えると包まれてしまい充分な助走距離が取れなくなる可能性がありました。これを何とか回避するために、内田騎手は逃げの手に出たのでしょう。
また内田騎手は1~2コーナーを周り向こう正面に差し掛かった辺りで、一気にペースを落としています。このペースダウンにも狙いが有ったと考えられ、まず第一にロングスパート戦を仕掛ける為にスタートダッシュで消耗した脚を、ここである程度回復させたかった。
そして第二に、一気にペースを落とすことによって後方の馬たちのリズムを崩して折り合いを乱し、主にジェンティルドンナを消耗させたかった・・・というものでしょう。そしてこの策は見事に嵌ることになります。
この時他馬が内田騎手の狙いに嵌らず、ペースを下げること無く交わし去っていればこの策は無意味なものとなっていました。ところが、他の騎手たちは内田騎手に付き合いペースを落としてしまいます。これは何故か?
まず第一に先頭に立って目標にされたくなかったことが挙げられるでしょう。そして第二に逃げているのが内田騎手であり、手綱を取っているのがヴィルシーナという有力馬だから付き合ってしまった。ということが挙げられると思います。
競馬の世界で盲目的に信じられている考えとして、
『他馬より先に動いたら負ける』という思想があります。これは確かに正しいことは正しいのですが、それも時と場合によるのは少し考えれば当然のこと。ところがJRAの騎手たちはこの教えを第一として、いわば盲目的に信じているのでは?と思われる節が多々有ります。
この時点で先頭には2番人気のヴィルシーナ、中団後方には1番人気のジェンティルドンナという状況が現出していました。勝負に色気を持っており、且つ先に動いたら負けという思想を刷り込まれているJRA生え抜きの騎手たちにとって、この状況はまさに金縛りに有った様なモノだったでしょう。だって2強に挟まれている形ですからね。
内田騎手は間違いなくJRA生え抜きの騎手たちの心理を読み切っていたでしょう。普通あれだけ一気にペースを落としてもし後続馬に飲み込まれてしまったら、その時点でレースが終わってしまいます。それにも関わらず自信を持ってこの策を仕掛けてきた内田騎手。完全に他の騎手の心理状態を読み切っていたとしか考えられません。
まさに老獪と言うか何と言うか・・・。これには正真正銘、日本を代表するトップジョッキーの怖さを存分に思い知らされた気がしましたね。
その後は小牧騎手の奇襲戦法に惑わされること無く、徐々にペースを上げながら仕掛けどころを計っていた内田騎手。残り500m付近でヴィルシーナにゴーサインを出しますが、これもまさにベストのタイミングだったと思います。
ヴィルシーナの公式上がりタイムは33秒9。馬場と展開、位置取りを考えれば理想的な上がりタイムと言えるのでは。
ゴール板を通過するときにきっちりと脚を使い切るように、緻密に計算された今回の騎乗。そういう素晴らしい手綱捌きを見せたのにも関わらず、僅かハナ差とはいえジェンティルドンナに交わされてしまった・・・。これはヴィルシーナがどうこうよりも、ただひたすらジェンティルドンナが素晴らしかったということでしょう。
最高のレースを見せたヴィルシーナと内田博幸騎手。敗れはしましたがこのコンビが見せた今回の戦いは、大いに賞賛されるべき素晴らしいものだったと思います。
■まさかGⅠで『園田まくり』が見られるとはこのレースのもう一人の主役は、間違いなく小牧太騎手でしょう。
内田騎手の逃げ戦法に他の騎手が金縛りに合う中、ただ一人レースを動かし勝ちに行った小牧騎手は流石でした。まさか最高峰の舞台であるGⅠレースで、あれほど見事な『園田まくり』が見られるとは思っていなかっただけに、地方競馬ファンとしても大満足です(笑)
園田からJRAに移籍してきて今年で9年目。騎乗馬の質や芝のレースでの不安定さなどもあり、イマイチ競馬ファンの支持を受けているとは言い辛い小牧騎手ですが、ここぞという時の思い切りの良さや勝負勘はまだまだ健在ですね。
あの時小牧騎手が動かなかったら、レース後相当な凡戦として叩かれていた可能性が高いだけに、まさに良い仕事をした!という印象です。
JRA生え抜きの騎手が皆不甲斐無い中、気を吐き続ける地方出身騎手の一人として、今後も頑張り続けて欲しいと思います。

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