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競走馬にとっての不治の病『屈腱炎』について、その発症原因を調べてみた。


The 46th Kokura Kinen(Kokura Racecourse)
Photo by kanegen

先日、今年のダービー馬であるディープブリランテの引退が、所属するサンデーレーシング㈱から発表されました。また同じ26日には、重賞2勝馬であるアリゼオの引退も馬主の社台レースホースのHP上で発表されています。

この2頭の引退に共通しているのは、競走馬にとって不治の病と恐れられる『屈腱炎』を発症し、引退へと追いやられてしまったということ。

今までも数多くの名馬が引退へと追いやられてきた、この屈腱炎という病気。果たして屈腱炎とはどういうものなのか?最新知見を元に、私なりにまとめてみたいと思います。

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■そもそも屈腱炎とは?

そもそも屈腱炎とは、馬の両前脚にある浅指屈筋腱(浅屈腱)に発症する病気の事を言います。人間で言うとアキレス腱のようなもの、と言えばイメージし易いでしょうか。

屈腱炎とはその浅屈腱の『腱内部の筋線維に出血を伴う切断や、腫れ(炎症)が発生した状態』のことを言います。よく屈腱炎というと『腱が切れた状態』と表現する人がいますが、それは正しくありません。

正確に言うと『屈腱内部の腱線維の一部が切れたり、腫れたりしている』のが屈腱炎であり、腱そのものが切れてしまう怪我は『屈腱断裂』や『屈腱不全断裂』という、別の名前の怪我になります。

先程『屈腱とは人で言うアキレス腱のようなもの』と言いましたが、恐らく屈腱が切れると表現する人は屈腱炎を『アキレス腱断裂』と同じような怪我と勘違いしているのでしょう。人間で言うアキレス腱断裂は、馬に当てはめると屈腱断裂に当たるので、この辺はしっかりと分けて考えないといけませんね。

※ちなみに『屈腱断裂』は屈腱炎に比べると非常に発生し辛い怪我であり、JRA総合研究所(以下JRA総研)の統計では屈腱炎の0.01%の発生確率となっています。


■屈腱炎が起こる原因

さて屈腱炎がどういった病気なのかを説明したところで、次は屈腱炎はどういった原因で発症するのかを説明しましょう。

有名な馬が屈腱炎を発症するたびに良く競馬ファンの間で言われるのが、『高速馬場(硬い馬場)が原因で腱に負担が掛かり、結果として屈腱炎になった』という説です。昔から良く言われているこの説は、果たして正しいのでしょうか?

結論から言うと、この説はほぼ間違っています。JRA総研や世界中の屈腱炎研究に従事する関係者の長年の研究の結果、今日では『馬場の硬度や運動時の負荷の強さは、屈腱炎の発症には直接的には影響しない』ことが解明されています。

そもそも屈腱炎を発症する馬は、まず屈腱炎が発症する前段階において、屈腱内部の腱線維が『屈腱炎の前駆病変』と呼ばれる状態まで変質(変性)している必要が有ります。

その『屈腱炎の前駆病変』と呼ばれる状態まで変性し脆弱になってしまった腱線維が、追い切りやレースで発生する強い負荷に耐え切れなくなり、一部の腱線維に出血を伴い切断や腫れを生じてしまうのが屈腱炎。健康な状態の腱線維から、一気に屈腱炎を発症するような状態まで悪化する事は有りえないと言うのが、最新の獣医学における定説だそうです。

すなわち腱線維が前駆病変の状態まで進行してしまった馬は、なんらかのキッカケで屈腱炎を発症することが約束されてしまっているとも言えるでしょう。言わば時限爆弾がセットされている状態みたいなもので、今回ディープブリランテは追い切り後に屈腱炎を発症しましたが、今回発症しなくても近い将来に屈腱炎になっていた事は、ほぼ間違いないと言えると思います。


■屈腱炎の前駆病変とは?

先程から何度も使っている『屈腱炎の前駆病変』という言葉。そもそも前駆病変とはどういった状態の事を言うのでしょうか?

簡単に説明しますと、『屈腱炎の前駆病変』とは本来太い筈の腱線維が細くなっていたり、腱線維と腱線維の隙間が通常よりも大きく開いてしまったり、腱線維を束ねている『腱内膜』と呼ばれる組織に異常が現れている状態の事を指します。

2012_10_28正常な腱線維     2012_10_28前駆病変へと至った腱線維     

上の2つの画像を見比べていただければ分かるように、前駆病変へと至ってしまった腱線維は、正常な状態と比べて腱線維の太さが明らかに小さくなっていますし、腱線維と腱線維の隙間が大きくなってしまっています。

言わば腱の内部がスカスカになっている訳で、この状態で腱に強い負荷が掛かればどうなるか・・・専門家じゃない私達でも良く分かりますね。いつ腱線維に限界が来てもおかしくない状態・・・。まさに屈腱炎の発症、待ったなし!です。


■なぜ前駆病変へと至るのか

では何故、屈腱の腱線維は前駆病変の状態へと至ってしまうのでしょうか?

そもそも腱線維は、コラーゲンと呼ばれるタンパク質で構成されています。このタンパク質は熱を与えると変性(熱変性)してしまうことが分かっており、実験では42℃で変性を始めることが確認されているとか。

人間も馬も運動すると体温が上昇します。馬の平熱は個体差はあるものの、大体37℃後半ぐらいと言われています。それが運動を始めると、大体40℃以上まで上昇するそうです。

過去にイギリスの研究者が、全力疾走中の競走馬の腱内部の温度を測定したそうです。それによるとフルギャロップ(全力疾走)中の腱内部の温度は、実に45℃まで上昇していたとか・・・。腱線維を構成するタンパク質が変性するには、充分な温度ですね。

勿論、たった一度の追い切りやレースで腱線維の変性が一気に進んでしまう事は有り得ません。腱線維の熱変性は少しずつ行われていくものです。しかしこれら熱変性を引き起こす運動が、長期間の間に高い頻度で繰り返し行われていたら・・・。

この事実を踏まえ、とある研究者が実験を行ったそうです。その実験とはトレッドミルで強めの運動を週に3回、一年半の長期に渡って行い続けるというもの。この実験を行った馬は屈腱炎こそ発症しなかったそうですが、前脚の腱線維が明らかに細くなるという変性が確認されたとのこと。

それではともう一頭の馬に、今後は更に強めの運動を週3回、5ヶ月間に渡って与え続けたそうですが、こちらの馬には腱線維の変性は認められなかったそうです。

これらの実験を何度も何度も繰り返し行った結果、屈腱炎の前駆病変が発症する原因は運動の強度・負荷ではなく、ある一定レベル以上の負荷を長時間続けることにより腱線維の熱変性が促進され、やがては前駆病変への状態へと移行してしまうということが判明。

現在ではこの考え方が、世界の屈腱炎研究において主流の考え方となっています。


■予防方法は?

このように長期間にわたる調教やレースの蓄積が、屈腱炎を発症する大きな原因だと解明されましたが、当然の事ながら屈腱炎になる可能性が高いからと言って、調教やレースをしない訳にはいきません。競走馬はレースを走る為、勝つ為にこの世に生まれてきている訳ですから、そうなってしまったら彼らの存在意義が無くなってしまいます。

そういう訳で競走馬は調教やレースを行わない訳にはいかない・・・。ならば一番大事になってくるのが、屈腱炎にならないよう事前にしっかりと予防・ケアを実施すること。

先程も述べたように、腱内部の温度が42℃を超えると腱線維は変性を始めます。屈腱炎の予防にはこの42℃以上になっている時間を極力減らすことと、熱を持った腱部分を速やかに冷却することが重要となります。

現在調教後やレース後に、洗い場に繋がれた競走馬が水で脚を冷やしている場面を良く見るようになりました。この作業は屈腱炎の予防に効果的で、この作業が一般的となり広まっていくにつれて、屈腱炎の発症件数も減少してきているというデータもあります(JRA総研調べ)。

この事例一つとって見ても分かるように、とにかく屈腱炎の予防には屈腱部に熱を持たせない、熱を持った場合は速やかに冷却することが重要。

多くの競走馬が調教時やレース時に脚にバンテージを巻いていますが、屈腱炎のことだけを考えたら巻かない方が良いでしょう。バンテージを巻いていた場合、長い時間クーリングダウンを消化した後でも、まだかなりの熱を屈腱部に帯びていることが多いですからね。

ただ他の怪我を発症する確率等も考慮した場合、一概にバンテージは巻かない方が良いとも言えず・・・。個人的にはバンテージはコース入りする直前に巻く。そしてレース・調教等が終わったらすぐさま外し、その上でクーリングダウンを実施するといった、事細かなケアが大事になって来るのではないかと思います。

まあ一番良いのは、追い切り時やレース中でも常に冷やし続けてくれる、冷却効果付きバンテージの開発なんでしょうが・・・。だれか頭の良い人が作ってくれませんかねぇ?(笑)


■まとめ

そんな感じで現在の最新知見を元に、私なりに屈腱炎について纏めてみました。

古くからその存在が認識され、競馬ファン・関係者に『不治の病』と知られてきた屈腱炎。それだけ恐れられている病気なのに、競馬ファンはともかくとして関係者の中でもこの病気の事を正しく認識していない人間が多く存在することに、私は深い憂慮を覚えます。

特にキャリアの長い獣医師とか厩舎関係者は、最新の研究内容を信用せずに自身のカンに頼ることもしばしば。確かに経験が重要な職業なのは間違いないですが、根拠も無い思い込みだけで馬に接しられると、その馬が不幸になってしまいます。そんな人たちには早々に退場して欲しい。

今回ここで紹介した内容はネット上でも調べられることばかりです。熱意のある競馬関係者ならば、きっと自分で調べようと思うでしょうし、いつも見てもらっている獣医師さんともスムーズな連携が取れることでしょう。

そういう人間に世話される馬は、きっと幸せな競走生活を送れるはず。このブログは関係者の方でも見られている方がいるそうなので、僭越では有りますが私論を述べさせてもらいました。

一般の競馬ファンの方々が、屈腱炎を患いターフを去る馬たちを心から惜しむ姿を目撃するたびに、『この人たちは本当に競走馬を、競馬を愛しているんだな』と常々思ってきました。これは日本競馬が世界に誇れる、本当に素晴らしい部分だと思います。

こんな素晴らしい競馬ファンが心を痛める場面が少しでも減るように。そして競走生活を全うし、悔いなく引退できる馬が1頭でも多くなるように、屈腱炎研究のみならず獣医学全体の更なる発展を、心の底から願いたいと思います。

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[ 2012/10/28 22:30 ] 競馬雑談 | TB(0) | CM(-)
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